前回は、低血糖症の症状が「心の弱さ」ではなく、脳のエネルギー切れによって起こることをお話ししました。
そして、そのエネルギー(ブドウ糖)を管理しているのが「肝臓」であることもお伝えしました。
では、なぜあなたの肝臓は、必要な時にブドウ糖を出してくれないのでしょうか?
「インスリンが出すぎているからだ」 「甘いものを食べ過ぎて、膵臓(すいぞう)が疲れているんだ」
そう言われることが多いですが、ブロダ・O・バーンズ博士の研究によれば、真犯人は別の場所にいます。
それは喉元にある小さな臓器、「甲状腺(こうじょうせん)」です。
- 「インスリンの出しすぎ」は稀なケース
低血糖症が発見された当初、医師たちは「膵臓に腫瘍があり、インスリンが過剰に分泌されているのではないか」と考えました。
確かにインスリンは血糖値を下げるホルモンなので、これが出すぎれば低血糖になります。
しかし、バーンズ博士は著書でこう指摘しています。
「そのような腫瘍のケースは稀であり、過去50年間の世界中の医学文献でも1,000件未満しか報告されていない。私自身も医師生活の中で一度もそのような症例を見たことがない」
つまり、ほとんどの低血糖症患者にとって、膵臓の病気が原因ではありません。
インスリンが過剰に出過ぎているのではない、と。
問題は、インスリンが血糖値を「下げすぎる」ことではなく、肝臓が血糖値を「上げられない」ことにあるのです。
- 肝臓を怠け者にさせる「甲状腺機能低下」
ここで「甲状腺」の登場です。
甲状腺ホルモンは、体のアクセルペダルのような役割を果たしており、細胞の代謝を活発にします。
もし甲状腺の機能が低下すると、どうなるでしょうか?
バーンズ博士は、甲状腺機能低下が「肝臓をのろま(Sluggish Liver)」にしてしまうと説明しています。
健康な状態であれば、食事をしていない間、肝臓は体内のタンパク質を分解して新しいブドウ糖を作り出します(これを糖新生と呼びます)。
しかし、甲状腺ホルモンが不足していると、この変換作業がスムーズに行われません。
その結果、ストレスがかかったり、食事が遅れたりしただけで、肝臓の供給が追いつかず、低血糖の症状(震え、イライラ、脱力)が出てしまうのです。
- 歴史が証明する「新しい人口層」の出現
なぜ現代になって、これほど低血糖症や甲状腺の問題が増えているのでしょうか?
バーンズ博士は非常に興味深い歴史的考察をしています。
20世紀前半まで、甲状腺機能が弱い人々は、結核や肺炎などの感染症で若くして亡くなることが多かったのです(甲状腺機能低下は感染症への抵抗力を弱めるため)。
しかし、抗生物質の登場と医療の進歩により、本来なら感染症で亡くなっていたはずの人々が生き残れるようになりました。
バーンズ博士は彼らを「新しい人口層(New Population)」と呼びました。
新しい人口層、ってどういう人達か、というと、命は助かったけど、彼らは根本的な「甲状腺の弱さ」を抱えたまま大人になった人たちです。
その結果、慢性的な疲労や、そして今回のテーマである「低血糖症」に悩まされることになったのです。
- 「ヒステリー」と誤診された女性の復活
バーンズ博士の患者に、ある法律事務所の秘書がいました。
彼女は職場で頻繁に失神し、集中治療室に運ばれましたが、精密検査の結果は「異常なし」。
医師からは「ヒステリー(精神的なもの)」と診断されていました。
しかし、彼女には寒がりや乾燥肌など、甲状腺機能低下の典型的な症状がありました。
バーンズ博士が彼女に甲状腺治療を行ったところ、低血糖の発作は完全に消えました。
それどころか、かつては避けていた甘いパイやチョコレートを食べても、震えや失神が起きなくなったのです(※もちろん、治療が完了してからの話です)。
彼女の肝臓は、甲状腺ホルモンという「燃料」を得て、ようやく正常に働き始めたのでした。
さて、
低血糖は甲状腺が原因ですよ!というと、
「でも、病院の血液検査で甲状腺は『正常』と言われました」
そうおっしゃる方もいるかもしれません。
実は、ここにも大きな落とし穴があります。 バーンズ博士は、一般的な血液検査では多くの甲状腺機能低下が見逃されていると警告しています。
ということで、次回は、高価な検査キットを使わずに、自宅で毎朝できる「最も確実な診断方法」についてご紹介しますね!
