毎日が脳機能回復の学びの日々なわたしですが、
ドクターとのトレーニングコースとは別に、月に2回、Dr.Stephensを囲んで、世界中の仲間とオンラインで集まる質問会があります。
その会で聞いて、ずっと頭の中に残っている言葉があります。
「人間は本来、怠けるものだ」という思い込み
Dr.Stephensが、こんなことを言っていました。
「人間は本来、怠けるものだ」と、私たちは信じ込んでいる。
怠けないように自分を鍛えることはできるし、子どもを怠けないようにしつけることもできる。
でも根っこのところでは、人間とは怠けるものなのだ、と信じている、と。
それは、人を人として扱わない、たくさんの思い込みのひとつで、
まるで真実であるかのように信じられているけれど、それは実は全く本当ではない。
人間は、そのように作られていない。という話でした。
聞いていて、本当にそうだな〜と思いました。
あなたも、どこかで思っていませんか
放っておいたら、私はだらけてしまう。
だから、自分にムチを打たないといけない。
計画を立てて、締め切りを作って、気合いを入れて、ようやく動ける。
動けない日は、「私って、なんて怠け者なんだろう」と自分を責める。
これ、ほとんどの人が、疑ったこともないくらい当たり前の前提だと思うのです。
手帳術も、習慣化のコツも、自己管理の本も、
たいていは「放っておくと人は怠ける」という前提の上に立っています。
だから、うまくいかないと、もっと強いムチを探す。
もっと厳しい計画を立てる。
それでも続かないと、「やっぱり私はダメなんだ」に戻ってくる。
ぐにゃぐにゃの床の上で生まれたら
Dr.Stephensは、これをこんなたとえで説明していました。
お祭りやショッピングモールで見かける、空気でふくらませた、ふわふわの遊具がありますよね。
床がぐにゃぐにゃで、跳ねて遊ぶあれです。
もし、あの中で生まれて、一度も外に出たことがなかったら、どうなるか。
歩くときは、足を大きく開いて、高く上げないとバランスがとれない。
走ろうとすると、すぐに転ぶ。
スープを飲もうとすると、こぼれてしまう。
ずっとその中で暮らしていたら、きっとこう思うようになります。
「人間は、走るようには作られていない」
「人間は、スープを飲めない生き物なんだ」
すり傷やあざが絶えないのも、いつも緊張して体がこわばっているのも、
それが人間というものなのだ、と。
でも、それは人間の本当の姿ではないですよね。
床がぐにゃぐにゃだから、そう見えているだけ。
固い地面に降りたら、ちゃんと走れるのです。
「人間は本来怠けるもの」という思い込みも、これと同じだ、というお話でした。
このたとえで私がいちばん大事だと思うのは、
中にいる人には、床がぐにゃぐにゃだということが見えない、という点です。
生まれたときからそうなら、それが「ふつう」だから。
おかしいのは床なのに、自分の足のほうを責めてしまう。
脳は、燃料が足りないと「節約」に入る
では、なぜ私たちは「怠けている」ように見えてしまうのか。
ここで、いつもの脳のエネルギーの話につながります。
脳は、体の中でいちばんエネルギーを使う場所です。
2013年に『Trends in Neurosciences』に出た、ドイツのシャリテー大学のグループによるレビュー(Mergenthaler et al., 2013)は、
哺乳類の脳は、主なエネルギー源をグルコース(糖)に頼っていて、その糖の代謝をきちんと調節することが、脳が正常に働くための土台になっている、とまとめています。
そして、糖の代謝が乱れることが、多くの脳の不調の背景にある、とも。
それどういうことかというと、
脳がちゃんと働くかどうかは、気合いや性格より先に、まず「燃料が届いているかどうか」で決まっている、ということです。
そして、燃料が足りないとき、脳は真っ先に「節約」に入ります。
生きるのに必ずしも必要でないことから、止めていく。
新しいことを覚える。
人に会いに行く。
今日はもうひとつ、やってみる。
こういうことが、いちばん先に削られるのです。
だから、エネルギーが足りない状態の脳から見ると、
動けない、やる気が出ない、腰が重い、というのは、怠けではなくて、脳が自分を守っている姿なのですね。
そこに「私は怠け者だ」という責める気持ちが重なると、それ自体がまたストレスになって、さらに燃料を使ってしまう。
ぐにゃぐにゃの床の上で、転ばないように、ずっと体をこわばらせているようなものです。
ムチを強くするほど、床はさらに揺れる。
燃料があると、脳は「元の働き」に戻ろうとし続ける
Dr.Stephensは、こうも言っていました。
脳はいつも、元の働きに戻ろうとし続けている。
燃料が十分にある限り、それをやめることはない、と。
私は、これをすごく実感しています。
脳に正しいエネルギーを入れてあげていたら、
拡大し続けようとし続けるのが、正常な状態なんだな、と。
もっと吸収したい。
もっと動きたい。
もっとよくなりたい。
誰かに言われてがんばっているのではなく、内側から自然とそうなっていく。
わたしが、何歳になっても、20代30代の方たちに混ざっての勉強会に出かけていったのも、
娘が計算をくり返して、できなかったことができるようになっていくのを見ているのも、
ああ、これが人間の本来の姿なんだな〜と思うのです。
娘が、誰にも言われていないのに、玄関の靴を毎日並べるようになったことがあります。
Dr.Stephensが、関わった子どもたちは、燃料が満ちてくると、言われなくても、急かされなくても、叱られなくても、自分から部屋を片付けはじめる、と話していたのも、同じことなのだと思います。
ムチがなくても、人は動く。
固い地面に降りれば、ちゃんと走れるのです。
「いつも活動的でいなきゃ」ではない
ただ、ひとつだけ付け加えると、
「だから、いつも活動的でいなきゃ」という話ではありません。
休みたいときに休むのも、眠いときに眠るのも、体が本来の働きをしている姿です。
それを「怠け」と呼んで責めるのも、またぐにゃぐにゃの床の上の考え方なのですね。
燃料が満ちていれば、休んだあとには、ちゃんとまた動きたくなる。
それを信じていいのだと思います。
あなたが「私は怠け者だから」と思ってあきらめてきたことは、何でしょう。
それは本当に、あなたの性格でしょうか。
それとも、ぐにゃぐにゃの床の上で、燃料が足りないまま、がんばってきた結果でしょうか。
参考文献
Mergenthaler P, Lindauer U, Dienel GA, Meisel A. Sugar for the brain: the role of glucose in physiological and pathological brain function. Trends in Neurosciences. 2013;36(10):587-597.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23968694/
この記事は、石井恵子のニュースレターでお届けした内容をもとにしています。
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