関西へ、2泊3日で出かけたときの話です。
目的のひとつは、勉強会に出ること。
仕事がどんどん煩雑になっていくなかで、AIに任せられるところは任せる、ということをやっていて、その効率化のために、もう一段学びを深めたかったのです。
もうひとつは、京都でお茶の学校をやっていて、2週間以上出張していた夫を訪ねること。
留守のあいだは、父がわざわざ福岡から長崎まで来てくれて、孫たちと3日間を過ごしてくれることになりました。
料理はたっぷり作って、これこれはいついつ食べて!と、冷蔵庫に入れて。
あとは、みんなで協力して頑張ってくれていたようです。
その勉強会の会場で、あらためて感じたことがあります。
20代と30代の中に、、、、
会場は、20代、30代の方がメインでした。
皆さんそれぞれ、いろんなお仕事をされている方たち。
その中に、私と、私のお隣の方。
実は私は52歳で、お隣の方は72歳。
私達の列が会場の平均年齢を上げていたのは間違いないのですが、
でもこのお隣の方が、もう、めっちゃ元気な方で、
本当に幅広くいろいろされていて、いい年の取り方をされている方だな〜と、話もすっかり盛り上がりました。
長崎から関西まで出てきていたのは、私くらいでしたけれども。
「ふつうの会話」の中に、知らない常識がある
その場にいて、いちばん強く思ったのは、これです。
何かを上手になりたいとき。
自分の中で、それを「当たり前」にしていきたいとき。
一番の近道は、その環境に身を置くこと。
その場で交わされているのは、特別な講義ではなく、ふつうの会話です。
でも、その「ふつうレベル」の中に、私が聞いたこともないことが、当たり前のように混ざっている。
その場にいなければ、その常識に触れることすらありません。
だから、自分の中でまだ達成できていないことがあるとき、それを一人きりで何とかするのは、やっぱりすごく難しい。
本を読んでも、動画を見ても、そこに書かれているのは「誰かが選んで、まとめたもの」です。
その人たちにとってあまりにも当たり前で、わざわざ言葉にされないことは、その場にいないと入ってこない。
環境の力って、本当に偉大だと思っています。
脳は、周りとずれると「エラー」を出す
これを、脳の側から見た研究があります。
2009年に『Neuron』に出た、オランダのドンダース研究所のグループの研究です(Klucharev et al., 2009)。
参加者に、たくさんの顔写真を見せて、魅力を点数で答えてもらいます。
答えたあとに、「ほかの人たち(集団)は、この顔をこう評価しました」という点数を見せる。
そして、そのときの脳の働きを、MRIで調べました。
すると、自分の評価が集団の評価とずれたとき、脳の中の2か所——前帯状皮質の前のほう(rostral cingulate zone)と、腹側線条体(ventral striatum)——に、ある反応が出ました。
それは、学習の研究で「予測誤差」と呼ばれている信号に、よく似た反応でした。
予想と現実がずれたときに出る、「あれ?ずれているよ」という合図です。
そしてこの反応が大きかった人ほど、あとで同じ顔をもう一度評価したとき、集団の評価に近づく方向へ、自分の判断を修正していました。
研究者たちは、集団の「ふつう」は、学習の仕組みを通して、私たちの判断を合わせさせている、とまとめています。
それどういうことかというと、
周りの「ふつう」と自分がずれていると、脳はそれを、ちょっとしたエラーとして受け取る。
そして、そのエラーを小さくする方向へ、自分を少しずつ調整していく。
これは、誰かに合わせようと意識してやっていることではありません。
脳が、勝手にやっていることなのです。
脳は「当たり前」に、一番労力なく合わせていく
以前、娘の計算の話を書きました。
8たす5が、くり返すうちに13にしか見えなくなる。
脳はくり返したことをパターンにして、エネルギーの無駄遣いを減らしている、という話です。
この話も、その続きだと思っています。
脳は、ひとつひとつを特別なこととして、毎回がんばって処理するよりも、
自分の水準の「当たり前」のところに、一番労力の少ない形で合わせていこうとします。
そして、その「当たり前」の水準を決めている大きなものが、周りの「ふつう」です。
毎日ふれている会話。
毎日見ている人の動き方。
毎日聞いている、何気ない言葉。
それが、くり返しになって、パターンになって、いつの間にか自分の「ふつう」になっていく。
だとしたら、
ひとりで「当たり前を変えよう」とがんばるのは、毎回ゼロから8たす5を手順で解こうとするようなものかもしれません。
その「ふつう」の中にいれば、脳は、勝手にそちらへ合わせていってくれる。
「当たり前を変える」って、よく言われますけれども、
それって、本当にこういうことなんだよな〜と、あらためて実感する旅でした。
だから、ひとつだけ気をつけたいこと
この仕組みは、両方向に働きます。
いい環境に入れば、その「ふつう」に引き上げられる。
でも、たとえば、
「糖はこわいもの」が当たり前の場所。
「疲れているのが当たり前」の場所。
「がまんするのが当たり前」の場所。
そこにずっといると、脳はやっぱり、そちらに合わせていきます。
それは、あなたの意志が弱いからではありません。
脳が、一番労力の少ない道を選んでいるだけなのですね。
そしてもうひとつ。
新しい環境に入って、ずれを感じて、自分を調整し直す——これには、それなりのエネルギーが要ります。
以前書いたとおり、パターンを作り直すのにも、エネルギーが要るのです。
だから私は、いい環境に身を置くことと、脳にちゃんと燃料を届けることは、セットだと思っています。
助けが得られるときは、動く
もちろん、いつでも家を空けられるわけではありません。
あのときも、父が福岡から来てくれたから、行けました。
助けが得られそうなときは、こうして動く。
そして、自分がレベルアップした分は、家族に還元したり、関わってくださっている方たちに還元したりする。
そんな形で、循環させていけたらいいなと思っています。
あなたが今、「当たり前」にしたいことは、何でしょう。
そしてそれは、どんな人たちの中に入れば、ふつうに転がっていそうでしょうか。
参考文献
Klucharev V, Hytönen K, Rijpkema M, Smidts A, Fernández G. Reinforcement learning signal predicts social conformity. Neuron. 2009;61(1):140-151.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19146819/
この記事は、石井恵子のニュースレターでお届けした内容をもとにしています。
脳と代謝のお話を、メールでお届けしています。
▶ ニュースレターの無料登録はこちら
https://rondo-form.mentalbeauty.workers.dev/

