SNSを見ていて、気になったことがありました。
誰かと戦うことで、すごく頑張れている人たちがいるなぁ、と。
あの人が自分を狙っている。
このままだったら、蹴落とされる。
あの人の言っていることは、間違っている。
そういう「敵」を置いて、そこに向かっていくことで、自分を奮い立たせている。
見ていると、そういう方向でやっている人が、けっこういるのですよね。
そして、戦うモードのときって、実際にすごくモチベーションが上がるのです。
ここでは、その「上がる」の中身の話をさせてください。
「やられるかも」という予測が、スイッチを入れる
脳は、いつも先を予測しながら動いています。
「このままだと、やられるかもしれない」「負けるかもしれない」
予測がそこにはまると、脳はそれを「危機」として扱います。
すると、交感神経を通して副腎からアドレナリンが出る。
アドレナリンが出ると、肝臓は蓄えていたグリコーゲンを分解してブドウ糖を血液に出し、脂肪組織からは脂肪酸が放出されます。
心拍が上がり、頭が冴えて、体が前のめりになる。
つまり、エネルギーを回すスイッチが、強制的に入るのです。
だから私たちは、アドレナリンで頑張れてしまうのですね。
怒りや敵意で「やる気」が出るのは、気のせいではありません。体の中で、実際にエネルギーが動員されているのです。
ただし、それは前借りでできている
ここで大事なのは、そのエネルギーがどこから来ているか、です。
普段の食事から入ってきた燃料が、余裕をもって回っているわけではない。
足りない分を、体の中の蓄えから引き出している。
そして、緊急事態が長引くと、もうひとつのストレスホルモン、コルチゾールが前に出てきます。
コルチゾールは、筋肉などのたんぱく質を分解して、そのアミノ酸から肝臓でブドウ糖を作らせる(糖新生)方向に働きます。
ひとことで言えば、自分の体を取り崩して、燃料に変えているのです。
私たちの体には、それができる能力がちゃんと備わっています。
いざというときに命を守るための、本当に大事な仕組みです。
でも、本来は「いざというとき」用の仕組みなのですね。
これを毎日の動力にしてしまうと、1ミリずつでも、体を取り崩し続けることになります。
Ray Peatは、ストレスホルモンで回っている状態を、代謝がうまく回っていないことの裏返しとして捉えていました。燃料がちゃんと届いていれば、そもそも非常用の仕組みを毎日引っぱり出す必要はない、という見方です。
なので、アドレナリンで頑張っている人は、しばらくは頑張れちゃうのです。
でも、どこかの時点で、中長期的にガタがき始めます。
これは、「ネガティブをばらまいたから、自分に返ってくる」というような、ふわっとした話ではありません。
体のメカニズムから考えて、そうなるよね、そうなるだろうなぁ、ということなのです。
仮想敵は、燃料切れのサイン
何かにイライラしている。
誰かの揚げ足を取らないと、気が済まない。
文句や愚痴を言っているときのほうが、なぜか元気が出る。
そういうところを自分のモチベーションにしてしまうのは、
エネルギーが枯渇しているからこそ、そっち側に頼ろうとしている、ということなのです。
燃料が足りないから、アドレナリンという非常用のスイッチを入れないと動けない。
だから、仮想敵が必要になる。
性格がきついからでも、意地が悪いからでもなく、、、、燃料の話なのですよね。
そして、長年それで回してきた人ほど、自分がアドレナリンに頼っているということに、そもそも気づいていなかったりします。
それが「自分のやる気」であり、「自分の性格」だと、ずっと思ってきたのだから、当然です。
以前、罪悪感が脳の燃料を食べていく話を書きました。
罪悪感は燃料を内側から削り、仮想敵は燃料の足りなさを外側への怒りで埋めようとする。
向きは逆に見えても、根っこは同じ「脳の燃料の残り具合」なのだと思います。
スイッチを切ると、いったんだるくなる
そういう方が、プロメタボリックな食事や、脳機能回復の取り組みを始めると、ちょっと面白いことが起こります。
体が、ストレス系に頼らない回し方へと、移行していくのです。
極力、アドレナリンやコルチゾールを使わずに回そうとする。
すると、今までストレス系で回していた分が、オフになる。
その結果、すごくだるさが出る方がいらっしゃるのですね。
「え、良くなるはずなのに、なんでだるいの?」と。
でもそれは、今までそれだけストレス系に頼ってやってきていた、ということの裏返しでもあるのです。
ずっとアクセルを踏みっぱなしだった足を、ようやく離した。
離した瞬間に、今までの疲れが、やっと表に出てくる。そんな感じでしょうか。
移行の時期は、一人だと揺れる
この時期は、一人だと本当に不安になります。
何が起きているんだろう。
やっぱりこのやり方は、私に合わないんじゃないか。
そう思って、元のやり方——つまり、ストレス系で自分を叩き起こすやり方——に戻ってしまう方も少なくありません。
だから私は、この時期こそ伴走が大事だと思っています。
伴走していく中で、そういう不安は抜けていって、体のほうも、ストレス系じゃない状態で回すことを、だんだんし始めるようになっていきます。
そうなると、文句や、人の愚痴や、仮想敵で、エネルギーをひねり出す必要がなくなってくる。
だから、心が平安になっていくのですよね。
エネルギーがあれば、人は勝手に頑張る
かといって、頑張らなくなるわけではないのです。
むしろ、エネルギーを持つと、人はみんな勝手に頑張るようになります。
私たちはもともと、より良く生きようとする生き物です。
脳は、エネルギーさえもらえば、拡大していくのですね。
縮こまっていく、萎縮していくというのは、どうしてもエネルギー不足の結果として起こっていくこと。
そうではなく、エネルギーを入れていけば、機能は上がり続けていくものなのです。
敵がいるから頑張る、のではなく、燃料があるから自然と前に進む。
同じ「頑張る」でも、中身がまったく違うのです。
ムチを打つしかないとき
でも、エネルギーがないまま、それでも頑張らないと生きていけない。
そうやって自分にムチを打つやり方をしているときは、
どうしても、仮想敵を作ってしまう。
ああ、そういうことをやってしまうのが、私たちなんだよなぁ〜。
と、SNSを眺めながら、しみじみ感じたのでした。
あなたにも、「怒っているときのほうが動ける」「誰かに負けたくない気持ちで、なんとか踏ん張っている」という感覚はありませんか?
もしそうなら、それはあなたが戦い好きだからではなく、燃料の残り具合のサインなのかもしれません。
この記事は、石井恵子のニュースレターでお届けした内容をもとにしています。
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