日曜の朝は、毎週、脳機能回復のドクターのトレーニングコースがあります。
ある日曜日の話です。
もちろん、全部英語です。
その日もクラスがあって、最後のディスカッションのところで、参加している別のドクターから、突然こう振られました。
「けいこ、前に相談していたクライアントさんのアップデートは?シェアして」
ちょうどその後の経過があったので、なんとかお話ししたのですけれども。
この日曜日の朝は、毎週、とても試される時間だな〜と思っています。(それも、朝5時から3時間!)
日常会話なら、平気なのに
日常会話レベルなら、全然プレッシャーなくいけるんです。
でも、専門的なことを英語で質問しようとする。
意見を言おうとする。
ここは、やっぱりハードルがさらに一段高い。
しかも、20人ぐらいの限られた人数の中でディスカッションが進んでいて、そこで急に名前を呼ばれる。
英語圏の方にとっては、何のチャレンジでもないことだと思います。
でも、英語圏の人間ではない私にとっては、友達とおしゃべりするのとはまったく違う、ドキドキ感があるわけで。
大人なのに、保育園児の立ち位置
ここで、思い出すことがあります。
最初にアメリカに渡ったとき。
学生時代、受験期にはそれなりに英語を勉強してきた方だったと思います。
英語の論文も、読んでいたはずでした。
それなのに、全然通じない。
自分は大人なのに、言葉が通じないというだけで、本当に保育園児のような立ち位置になってしまう。
あの苦さは、味わったことがないと、なかなか分からないかもしれません。
言葉が通じない。
言葉が理解できない。
それだけで、人はすごく「弱者」になるんですよね。
そこから勉強して、しどろもどろの英語にも付き合ってくれる、お茶飲み友達のような存在ができて。
なんとか言いたいことを通じさせながら、やってきました。
そのあと2010年に、ニューヨークのホリスティック栄養学の学校に通うことになって。
「この英語力じゃ、授業についていけない」
と、そこでまた本格的に勉強に力を入れました。
ただ、あの頃は、先生に当てられて意見を求められる、なんてことはなかったんですよね。
「分からない」は、エネルギーを使う
以前、『「分からない」という状態が、いちばんエネルギーを使う』という記事を書きました。
私たちの体は、「悪い知らせ」よりも「分からない」のほうに、エネルギーを使うようにできている、という話です。
言葉が通じない場所にいるというのは、その「分からない」が、朝から晩まで続くということです。
相手の言っていることを、一語ずつ拾う。
拾えなかった部分を、推測で埋める。
返す言葉を、頭の中で組み立てる。
組み立てているあいだに、話はもう先へ進んでいる。
これをずっと続けていたら、疲れて当然なのですね。
しかも、そうやって必死に処理しているあいだ、外から見えるのは「うまく話せない人」の姿だけ。
保育園児の立ち位置、というのは、そういうことなのかもしれません。
10分の隙間は、意外とある
その日曜日の朝のために、自分で作った英語のアプリで、英語を鍛え直しています。
使うのは、隙間時間。
子どもを送っていくとき。
洗濯物を干しているとき。
ご飯を作っているとき。
誰でも、1日のうちで、まとまった時間はなかなか取れないんですよね。
1時間、2時間を確保するのは難しい。
でも、10分の隙間って、結構あるんです。
洗濯物を干しているとき、手はふさがっていても、耳は自由ですよね。
そういう時間に、ちょこちょこ、ちょこちょこ。
間をあけて、くり返す
この「ちょこちょこ」には、ちゃんと裏づけがあります。
学習の研究では、同じ量を学ぶのでも、一度にまとめて詰め込むのと、間をあけて何回かに分けるのとでは、記憶の残り方が違う、ということが昔から調べられてきました。
「分散学習」と呼ばれているものです。
2006年に『Psychological Bulletin』に出た、カリフォルニア大学サンディエゴ校のグループの研究があります(Cepeda et al., 2006)。
この分散学習について、それまでに発表された184本の論文、317の実験、839の評価を集めて、まとめて分析したものです。
そこで分かったのは、間をどれくらいあけるかと、どれくらい先まで覚えておきたいかが、いっしょになって、記憶の残り方を決めている、ということでした。
そして、長く覚えておきたいものほど、いちばん効く間隔も、長くなっていく。
それどういうことかというと、
一夜漬けのように、いっぺんに詰め込むのではなく、
時間をおいて、何度も出会い直すほうが、脳には残っていく、ということです。
前に、娘の計算の話を書きました。
8たす5が、くり返すうちに、もう13にしか見えなくなる。
脳はくり返したことをパターンにして、エネルギーの無駄づかいを減らしていく、という話でした。
英語も、同じなのだと思います。
毎日の10分で出会い直しているうちに、一語ずつ拾っていたものが、かたまりのまま入ってくるようになる。
それはそのまま、「分からない」に使っていたエネルギーが、少しずつ浮いてくる、ということでもあるのですね。
なぜ、ずっと後回しだったのか
ここで、ふと思ったのです。
日本に帰ってきて、なぜ今まで、英語をもっと上手に話せるようになろう、と積極的にならなかったのか。
日々の中で、それは後回しなことでしかなかった。
やっぱり、「絶対に必要だよね」という目的が、薄かったのかな、と。
アメリカの友人とオンラインで話す時には日常会話なので、少々通じなくてもなんとかなる訳で、そうすると、絶対必要!!というモチベーションにはならなかった。
今は、違います。
英語で質問しなければならない!!っていう、こんなに恵まれた環境の中にいる。
脳機能回復のドクターと直接やり取りを毎週させてもらえる環境って、そうそう無いと思っています。
その恩恵を、いま私と一緒に脳機能回復に取り組んでくださっている講座生の方たちに、還元していきたい。
そのためには、現場で起きていることを、あの場でしっかりシェアして、ドクターや、ほかの先生たちから意見をもらいたい。
そう思っていると、英語の勉強には、おのずと力が入るのです。
「やる気を出さなきゃ」と、自分にムチを打っているわけではありません。
目的がはっきりした途端に、何年も後回しだったことが、毎日の隙間に勝手に入り込んできた、という感じに近いのですね。
「人は本来、怠けるものなのか」という話を書いたことがあります。
結局、後回しにしてしまう、出来てしまうのは、怠けているからではなく、
それが自分にとって「なぜ必要か」が、まだ見えていないだけなのだろうな〜と思った出来事でした。
ただ、目的だけでは足りない、とも思っています。
ここからが、いちばん書きたかった、脳機能回復とのつながりです。
同じドーパミンでも、出し方は2通りある
英語を勉強する。
算数の問題を解く。
どちらも、脳にとっては「労力のかかること」です。
でも、昨日より聞き取れた、解けるようになった——そんなときには、脳でドーパミンが出ます。
「よし、できた!」という、あの感じですね。
ドーパミンは「快楽の物質」と紹介されることが多いのですが、
もうひとつ大事な顔があります。
それは、「労力をかけてでも、取りにいこう」と私たちを動かす、という顔です。
これを人で調べた研究があります。
2012年に『The Journal of Neuroscience』に出た、アメリカのヴァンダービルト大学のグループの研究です(Treadway et al., 2012)。
25人の健康な参加者に、PETという画像検査で、脳のドーパミンの反応の大きさを測りました。
別の日に、同じ人たちに、こんな課題をしてもらいます。
楽な作業で、小さなごほうびをもらうか。
大変な作業で、大きなごほうびを狙うか。
すると、線条体の左側と、前頭葉の内側の下のほう(腹内側前頭前野)でドーパミンの反応が大きかった人ほど、
大きなごほうびのために、より大きな労力をかけることを選んでいました。
それどういうことかというと、
ドーパミンの働きがしっかりしている脳ほど、「大変でも、やってみよう」を選べる、ということです。
「ドパガキ」は、エネルギーを節約しようとする脳
ところが、ドーパミンは、労力をかけなくても出すことができます。
ショート動画を、次から次へとスクロールする。
通知が来るたびに、スマホを開く。
「ドパガキ」なんて言葉がありますよね。
手軽なドーパミンがやめられない子ども、という意味だそうです。
出ているのは、同じドーパミン。
違うのは、そこに労力をかけたかどうか、です。
では、なぜ人は、労力のかからない方を選んでしまうのか。
だらしないからでも、意志が弱いからでもなく、
脳に、労力をかけるだけのエネルギーが無いから、だと私は考えています。
前に、娘の計算の話で、脳はくり返したことをパターンにして、エネルギーの無駄づかいを減らしている、と書きました。
脳は、いつも節約したがっている臓器です。
エネルギーが足りないときほど、その節約はきつくなる。
だから、一番労力のかからない方法で、ドーパミンを手に入れようとしてしまう。
それが、スクロールの止まらない指なのだと思います。
燃料があると、労力をかけられる
反対に、脳にエネルギーがあると、
労力をかけることが、できるようになる。
英語を学ぶ。
算数を学ぶ。
何年も後回しにしていたことに、手をつける。
目的があっても、燃料がなければ、やっぱり動けないのですね。
目的と、燃料。
この2つがそろったとき、人はわざわざ気合いを入れなくても、動きだすのだと思っています。
脳機能回復って、ただ「疲れが取れる」「よく眠れる」だけの話ではなくて、
労力をかけられる脳を、取り戻していくことでもあるのです。
言われなくても、片付けはじめる
これ、インスタのストーリーに思わずシェアしたのですが、ドクターのレクチャーの中で、
「……典型的な例が、これまで関わった全ての子どもたちです。私は「お手伝いしなさい」「部屋を片付けなさい」とは全く、あるいはほとんどいいません。
それでも、脳に燃料が満ちてくると、言われなくても、急かされなくても、叱られなくても、自分から部屋を片付けはじめる。それだけが、目安ではありませんが、怠惰は人間の性質ではないと言う一つの目安です。…..」
というお話がありました。
これ、たしかにな〜〜って深く納得するのです。
下から2番目の娘は小さな頃からアトピーで、肘の内側、膝の内側がいつもかなり痒くてアトピーの子だな、って感じになっていました。
プロメタボリックで改善もしてきたけど、それでも、ちょっと外食があると、とか、埃っぽいところに行くと、とか、何かのきっかけで爆発する感じが続いていたのです。
皮膚症状に対しても脳機能回復が有効だと知って以降、娘に伝えて、そしたら、娘は自分でちゃんと摂取するようになっていました。
それは、彼女曰くは、「ちゃんと取り組んでいると、夜すぐに寝られる、パパやママが寝付いたあとにも私だけ寝られない夜が一番嫌だったけど、それが全くなくなったから!」と言う理由でした。
寝付きの改善がすぐに起こったのですが、皮膚の方はすぐには変化していなかったです。でも、ココに来て、秋口という一番皮膚が荒れやすい時期にも関わらず、彼女の皮膚はどんどん良くなって行ってて、「あれ?この頃薬を塗っているの?だからきれいになっているの?」と聞いたら、「いや、薬は全然塗っていないんだよ〜なんか、きれいになってきた!!」というのです。
彼女も脳機能回復7〜8ヶ月は取り組んできて、結果が出てきたようです。
そして、そこから、さっきのドクターの話とどう結びつくかと言うと、
主人が2週間出張で留守だったのですが、その間、玄関の靴並べをその娘がちゃんとやるんです!!!
私、一言もやれって言っていない。そもそも、それは主人がやってくれていた役割で、わたしはやらない仕事なのですが(汗)
毎日、ちゃんと並んでいるんです。
それとか、お姉ちゃんとか妹に、部屋を片付けることを伝えていたり、なんか、頭の中がオーガナイズされている感じが凄い!!!と見ています。
たしかに、自分も5年片付けていなかった棚を片付けたり、いろいろな業務を効率化するための仕組み作りしたり、と、
頭の中のゴチャゴチャがより整頓されているこのごろなのですが、自分以上に娘にその様子があると、
「うわーこれが脳機能回復の効果なのね!!」と改めて感動しています。
「もっとこうだったらいいのに」を、自分で作る
AIを否定している方もいらっしゃいますけれども、私は、本当に本当に助かっています。
やりたいことを、人に頼まなくても、どんどん形にしていけるからです。
世の中には、英語の教材がいろいろありますよね。
でも、使っていると「もっとこうだったらいいのに」が出てくる。
何か商品を買っても、ユーザーとして、もうちょっとこう、と思うことって、ありますよね。
それを、自分がいいと思う形に、自分で作り出せる。
子ども向けの英語教材も作っていますし、娘の算数のアプリもそうです。
娘が算数がどんどん得意になっていったように、私自身も、英語の時間がうまく取れるようになってきて、いい感じだなと思っています。
ほかにも、講座生の方たちに使ってもらっている、プロメタボリック的なことが毎日リマインドされる記録の手帳。
それから、体に筋力をつけていく、ボディメイクのアプリも試作中です。
そんな状態の、日曜日の朝でした。
あなたにも、ずっと「いつかやろう」と思ったまま、後回しになっていることはありますか。
それは、あなたにとって、「何のために」必要なことでしょうか。
そして、そこに手を伸ばせるだけの燃料は、今、脳に届いているでしょうか。
参考文献
Cepeda NJ, Pashler H, Vul E, Wixted JT, Rohrer D. Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin. 2006;132(3):354-380.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16719566/
Treadway MT, Buckholtz JW, Cowan RL, Woodward ND, Li R, Ansari MS, Baldwin RM, Schwartzman AN, Kessler RM, Zald DH. Dopaminergic mechanisms of individual differences in human effort-based decision-making. The Journal of Neuroscience. 2012;32(18):6170-6176.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22553023/
この記事は、石井恵子のニュースレターでお届けした内容をもとにしています。
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